全注釈付き『善の研究』

善の研究 <全注釈> (講談社学術文庫)

善の研究 <全注釈> (講談社学術文庫)

 西田幾多郎善の研究』(1911年)と言えば、岩波文庫か、岩波版・西田全集を紐解くのが普通だった。
 ところが、昨年に、西田研究者の小坂国継さんの注釈がついた『善の研究』が講談社学術文庫から刊行された。
 難読の漢字にルビが振られ、各種の哲学用語・哲学者についての注釈と各章解説が巻末ではなく、本文中に挿入されている。西田哲学をこれから学ぼうとする学生にはうってつけ。学生時代に、こういう本があれば嬉しかった。


 昭和11年、改版時の序文より。西田の文章は独特のリズム感があり、格調が高いと思う。

 フェヒネルはある朝ライプチヒのローゼンタールの腰掛けに休らいながら、日麗らかに花薫り鳥歌い蝶舞う春の牧場を眺め、色もなく音もなき自然科学的な夜の見方に反して、ありのままが真である昼の見方に耽ったと自らいっている。私は何の影響によったかは知らないが、早くから実在は現実そのままのものでなければならない、いわゆる物質の世界という如きものはこれから考えられたものにすぎないという考えを有っていた。まだ高等学校の学生であった頃、金沢の街を歩きながら、夢みる如くかかる考えに耽ったことが今も思い出される。その頃の考えがこの書の基ともなったかと思う。私がこの書を物せし頃、この書がかくまでに長く多くの人に読まれ、私がかくまでに生き長らえて、この書の重版を見ようとは思いもよらないことであった。この書に対して、命なりけり小夜の中山の感なきを得ない。(24頁)

 19世紀ドイツの汎心論哲学者フェヒネル(1801-87)と、西行の和歌「年たけて又こゆべしと思ひきや命なりけりさやの中山」に、2頁にわたる注釈を付した後、小坂さんは次のように解説する。

 西田哲学はつねに根本的実在を探求しつづけている。すべてがそこから出来し、すべてがそこへと還帰していくような根源的な存在、それこそ西田がもとめつづけたものである。
 しかも、それは平凡な日常的世界を離れた超越的な世界であるのではなく、むしろ日常的世界の内底にあるものである。それが純粋経験の世界であり、行為的直観の世界にほかならない。もし西田の基本的考えは、この序にあるように、すでに彼の高等学校の学生時代に芽生えていたとするならば ー そしてそれはあながち誇張ではないと思われるが ー そこに、西田の思想と問題意識の驚くべき一貫性を見ることができるだろう。(29頁)

 参考

 岩波文庫

善の研究 (岩波文庫)

善の研究 (岩波文庫)

 小坂国継さんによる西田哲学案内。

西田幾多郎の思想 (講談社学術文庫)

西田幾多郎の思想 (講談社学術文庫)

 青空文庫西田幾多郎
http://www.aozora.gr.jp/index_pages/person182.html

藤田正勝『西田幾多郎――生きることと哲学』 - G★RDIAS

 ドイツ語訳

 英訳

An Inquiry into the Good

An Inquiry into the Good