坂東眞理子「女性の品格」
発売直後に、猫殺しの人*1が書いたのかと思ったけれど、別人だったので、印象に残っている。随分売れているようなので、ぱらぱら読んでみた。
いわゆる礼儀・マナーについて説いた本なのだけれど「無料のものをもらわない」という一説があってびっくりした。無駄なものは、溜め込まないようにすべきらしい。私は試供品*2が大好きだ。特に、化粧水やクリームのサンプルは、タンスに入れておいて、旅行の時に持っていく。「もったいない」精神派の人からみると、どうなのでしょうか。
それから、真面目に批判したい点もある。最後のほうに「権利を振りかざすことは品格に欠ける」というような内容があった。女性の育児休暇や男女雇用機会均等法などは、さまざまな人たちによって作っていただいたものだから、「使って当たり前」ではなく感謝の念をもって、頭を下げて使いましょう、というような内容。社会的にどうこうではなく、個人ではそうしたほうが、スムーズにいきます、というアドバイスになっていた。
私はこれは、かなり品格に欠ける態度だと思った。育児休暇も男女雇用機会均等法も女たち(ていうかフェミニスト)が、「権利である!」とまさに「権利を振りかざして」勝ち取ってきた。*3それをぬけぬけと使っておいて、自分はスムーズに行くからと、「権利を振りかざす」人を貶めるのは、結果の掠め取りではないか。
「権利を振りかざす」ことが大切なのは、そうしておかないと、権利なんてすぐに剥奪されてしまうからだ。「正当な権利を行使する」ことは、その権利がその人にとって必要で、保証されるべきだということを、それ以外の人に知らしめる好機になる。そうやって、先人の勝ち取った権利を維持することは大事だ。
常に、そうやって「権利を振りかざす」ような余裕はない、というのも現実だ。だから、頭を下げて、感謝している素振りでなんとか権利を使うこともあるだろう。しかし、だからといって、「権利を振りかざす」人たちを貶める必要はない。それこそ、自らの好況が、「権利を振りかざす人」によって支えられていることをかえりみるような品格が必要ではないか。
フィラデルフィア美術館展、ドガ
京都市美術館でやっている「フィラデルフィア美術館展:印象派と20世紀の美術」を見てきました。
http://www.phila2007.jp/
ヨーロッパの印象派から、キュビスム、アメリカ美術まで、教科書に載っているような有名作品がぞろぞろ目の前に展示されていて、あっけにとられるような内容。もしこの美術館に誤爆があったりしたら、ヨーロッパ近代絵画の遺産たちが一瞬にして消滅する。面白かったのは、ルノワールの超名作数点の前は、けっこうみなさん素通りしていたということかな。おそらく日本の美術好きにとって、ルノワールは来日しすぎで、飽きている、ということなのだろうと思う。
個人的にいちばん興味を惹かれたのは、ドガの踊り子の立像をはじめて生で見たこと。Google画像検索で「ドガ 彫刻」を引くとすぐに出てくるので見てほしいが、これはけっこうめずらしい作品だと思う。ブロンズの立像に、布のチュチュを実際に着せていて、髪にも布のリボンを結んでいる。非常にフェティッシュな作品で、オタクの方々には受けるのではないだろうか。顔も東洋人っぽい。ドガの別の面を見たような気がした。タイトルは「14歳の小さな踊り子」。
ドーンセンターで映画の上映会
関西の、女性センター本拠地といえば「ドーンセンター」。大阪市内にあり、新しい建物で、毎日様々な催し物をやっている。
今月末に、ニキ・ド・サンファルをテーマにした映画の上映があるようだ。
無料ビデオ上映会「わたしのニキ」
○9/27(木)・29(土)両日とも
第1回 10:00〜11:30
第2回 14:00〜15:30
(※各回の定員15名、先着順の予約制。保育は木曜日のみです)●上映ビデオ内容
制作:稲邑恭子/ドキュメンタリー/2007年/90分/日本
造形作家ニキ・ド・サンファルの作品に魅せられた増田静江さんが1994年、栃木県の那須高原にニキ美術館をオープン。ニキの作品だけを集めた世界で唯一の美術館として彼女の名を高めた<射撃絵画>や、友人が妊娠し日々豊満になっていく姿にインスピレーションを得て造られた、豊満で陽気な女像<ナナ>シリーズなどの作品を紹介・所蔵しています。館長である増田静江さんとニキの人生が、映像の中で作品と那須の美しい景色とともに交錯していきます。(http://www.dawncenter.or.jp/kozent/servlet/kouzalst?no=00335)
ニキは、フェミニストの中では人気ナンバーワン芸術家なんじゃなかろうか。*1
他にも「山形国際ドキュメンタリー映画祭」の女性作品を集めた上映会も企画されている。
女性映像フェスティバル 2007 Part2
〜山形国際ドキュメンタリー映画祭 女性作品コレクション〜
講座内容 女性映像フェスティバルは、女性監督や女性を描いた作品の上映を通して、女性の視点による映像文化の発展と映像分野への女性の参画を目的として開催しています。今回は山形国際ドキュメンタリー映画祭(YIDFF)より、中国・インド・台湾・ドイツ・シリアなど、海外の様々な作品を上映します。
●と き 2007年10月13日(土)・14(日)・16(火)・17(水)
●会 場 ドーンセンター 視聴覚スタジオ(5F)(http://www.dawncenter.or.jp/kozent/servlet/kouzalst?no=00338)
もちろん、女性でない人も参加可能。
*1:私も大好きです。
定塚 甫「医者になる前に読む本――『診る人・診られる人へ』」
一念発起して、歯医者に行った。インフォームドはあったけれどコンセントはなかった。一方的に情報を並べられて、「じゃあ、こうしますから」っていうのは、インフォームド・コンセントでないんでは??しかし、医者―患者関係では、何もいえず、「はあはあ」と頷いて帰ってきた。
落ち込んでいたので、医療批判の本を読んでみた。
- 作者: 定塚甫
- 出版社/メーカー: 三一書房
- 発売日: 2007/03/01
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「欧米の先進医療に比べて日本は遅れている」「ゆとり教育に甘やかされた医学生・研修医はダメだ」という主張が中心だった。そして、ご自身が若かりし医学生のころの、思い出話。
確かに、先端技術至上主義で、機械に頼る医療を批判することは大事だ。人と人との触れ合いも、医療では大事だろう。しかし、「え…」と思うエピソードも多かった。いきなり研修医8人の前で、若い女性患者に全裸になることを命じる医学教授や、診察中に著者の股間をさわる女性患者の話は、読んでいて「もしかして、著者は美談だとして書いてるの??」とついていけなかった。*1くわしく論じるのもなんだが、著者は「医者は男だ」というお気持ちが強い人だということは、よくわかった。
また、著者は団塊の世代で、学生運動をすばらしき青春時代として振り返る。学生運動家たちは、教官と真剣に議論しあった。ときに正当な主張は、当局を動かすに至った。そして、現在も彼らは著作業や講演会などで、消息を知ることができる。それに比べて、教官に擦り寄ったノンポリ学生は、みんな金儲け主義や、机にかじりついたダメ医者になり、行方知れずだという。*2
私も、この世代の人に「昔の学生は云々、今の学生はダメだ」というお話をいただくことがある。「では、今のあなたはどうなんですか?」と聞きたくなるけれど、なかなか聞ける状況はない。私は、過去の栄光よりも、そこから転向して今にいたるおじさんたちの魂の遍歴を聞きたい。
そして、学生運動ではなく、本気運動家な医者もいたなあ、という本を。
- 作者: 藤沢敏雄
- 出版社/メーカー: 批評社
- 発売日: 1998/11/01
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定塚さんが、教官と学費の値上げ闘争をやっていたころ、生存のための闘いをしていた医者もいる。学生運動を否定するつもりはない。むしろ、私は「1968年」を、サブカルのカテゴリーとして愛好している。ただ、同じ医療批判でも、あまりにも意味合いが違う。
私は、今、必要とされているのは、定塚さんが思い描く医学生ではなく、藤沢さんのような医療システムに疑問を持ち、「既存のあらゆるシステムを超えていこうとする意志」を持つ若者だと思う。つまり、定塚さん(や藤沢さん)を糾弾するような医学生である。医療に限った話ではなく。
人生いろいろ、医者もいろいろ。患者だーっていろいろ、咲き乱れるわ。