坂東眞理子「女性の品格」

 発売直後に、猫殺しの人*1が書いたのかと思ったけれど、別人だったので、印象に残っている。随分売れているようなので、ぱらぱら読んでみた。

いわゆる礼儀・マナーについて説いた本なのだけれど「無料のものをもらわない」という一説があってびっくりした。無駄なものは、溜め込まないようにすべきらしい。私は試供品*2が大好きだ。特に、化粧水やクリームのサンプルは、タンスに入れておいて、旅行の時に持っていく。「もったいない」精神派の人からみると、どうなのでしょうか。

 それから、真面目に批判したい点もある。最後のほうに「権利を振りかざすことは品格に欠ける」というような内容があった。女性の育児休暇や男女雇用機会均等法などは、さまざまな人たちによって作っていただいたものだから、「使って当たり前」ではなく感謝の念をもって、頭を下げて使いましょう、というような内容。社会的にどうこうではなく、個人ではそうしたほうが、スムーズにいきます、というアドバイスになっていた。
 私はこれは、かなり品格に欠ける態度だと思った。育児休暇も男女雇用機会均等法も女たち(ていうかフェミニスト)が、「権利である!」とまさに「権利を振りかざして」勝ち取ってきた。*3それをぬけぬけと使っておいて、自分はスムーズに行くからと、「権利を振りかざす」人を貶めるのは、結果の掠め取りではないか。
 「権利を振りかざす」ことが大切なのは、そうしておかないと、権利なんてすぐに剥奪されてしまうからだ。「正当な権利を行使する」ことは、その権利がその人にとって必要で、保証されるべきだということを、それ以外の人に知らしめる好機になる。そうやって、先人の勝ち取った権利を維持することは大事だ。
 常に、そうやって「権利を振りかざす」ような余裕はない、というのも現実だ。だから、頭を下げて、感謝している素振りでなんとか権利を使うこともあるだろう。しかし、だからといって、「権利を振りかざす」人たちを貶める必要はない。それこそ、自らの好況が、「権利を振りかざす人」によって支えられていることをかえりみるような品格が必要ではないか。

*1:こちらは坂東真砂子。猫の不妊手術をめぐる論争の発端となるエッセイを書いた人。私は、これがきっかけで、猫の不妊手術の手技ビデオをみました。結構、衝撃でした。

*2:そういえば、私が東京に行くたびに驚くのは、試供品をたくさんくれることだ。もちろん、関西でも大阪・京都・神戸では配っているのだけれど、東京のほうが断然高いものをくれる。

*3:ただし、男女雇用機会均等法は、フェミニストが望んだとは言い切れない政策。むしろ、均等法は「行政のまやかし」という批判をするフェミニストが多いのだけれど。