『事例でまなぶケアの倫理』
ユニークな生命倫理の入門書が登場した。
- 作者: G supple編集委員会
- 出版社/メーカー: メディカ出版
- 発売日: 2007/06
- メディア: 単行本
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この本の最大の特徴は、従来なかったような「異なる身体を生きる経験」を重視している点にあるように思われる。たとえば、「難病を生きるということ」という章には、ALSや精神障害を生きるということを、当事者の視点から描きだそうとしている。つまり、従来ともすれば理論的な「お話し」だけに終わりがちな倫理学を、生きる経験、生きられる身体の経験として再構成しようとしているところにこの本の魅力があるように思われる。
たとえば、「出生前診断は優生思想に基づくのか」という項では、kanjinaiさんの著作も取り上げられる。
「内なる優生思想」への問いかけ
「障害を理由に中絶することと、今生きている障害者を差別することは、ほんとうにひとりの人間の中で切り離せるのか」という問題については、私は切り離せないと考える。(森岡正博『生命学に何ができるか―脳死・フェミニズム・優生思想』2001)
「障害を持つ胎児を中絶することと、今いる障害者を差別することとは違う。たとえ選択的人工妊娠中絶が肯定されても、今いる障害者のための努力を続けていけばよい」という考え方がある。森岡正博氏は、自分たちの中の「内なる優生思想」に向き合うことを、こうした考え方を取ることで回避したりしてはいけないとしている。選択的人工妊娠中絶や遺伝子診断の問題に関して、一人ひとりが自分自身の「内なる優生思想」に対して向かい合う必要があるのではないかと述べている。(p.41)
なかなかディープな入門書である。