介護におけるジェンダーの問題

 今朝のテレビ番組*1で、男性介護士の問題が取り上げられていた。途中から見たので、詳しい事情はわからないが、50〜60代の女性が、自分の母親が男性介護士に排泄の介助をされていることを、不満として訴えていた。*2母親は老人介護施設に入居中である。施設側への希望を申し入れたところ、人員不足を理由に断られた。*3
 番組では、スタジオのコメンテーターが、自身の親の介護を引き合いに出しながら話し合っていた。「若い男性にしてもらうなんて、申し訳ない」「男性のほうが力があるから、できる仕事もある」「わがままを言ってはいけない」「受けた教育の違いで、恥ずかしさには差がある」「正直、最初は(男性介護士に)抵抗があっても、介助を受けるうちに慣れてしまう」などなど。

 そういえば、男性の介護士についての論文があったと思い、再読した。山根純佳「男性ホームヘルパー生存戦略 ――社会化されたケアにおけるジェンダー――」(『ソシオロジ』52巻、2007年、91ページ〜106ページ)である。
 山根さんは、男性ヘルパーが、雇用者の偏見により排除されている状況を指摘する。その上で、男性ヘルパーの参入を好意的に受け止めている雇用者の発言から、実際に男性ヘルパーを派遣した結果、拒否していた利用者が受け入れるようになるケースが多いことを報告する。しかし、男性ヘルパーは「少数派」として存在していることも述べられている。*4
 山根さんの論文では、男性ヘルパーを受け入れにくいのは、男性利用者の場合でもありうることを指摘する。山根さんは、男性ヘルパーに聞き取り調査をしており、その語りを紹介しながら、分析する。

 注目したいのは定年退職組の男性ヘルパーが、介護に男性にしかできない仕事があることを強調している点である。六〇代のQさんはこう述べる。「今の社会を中心になってきた年代の男性たちが体を悪くされているときにその時代のことをわかってあげ、同感してあげることは男性でなければできない。女性や若い人では無理です。」彼は企業社会の戦士として男性利用者とのホモソーシャルな関係の重要性を強調する。
 しかし企業社会をとおして獲得された男性的アイデンティティは利用者の側にもあり、それゆえ男性ヘルパーが忌避されることもある。男性利用者から「自分が職場の中で男性を使ってきたので、そういう上下関係を家の中に持ち込まれるのがいやだ」として拒否された男性ヘルパーもいたという。男性同士の関係が必ずうまくいくわけではない。

(101ページ)

これまで、男性介護士よりも、女性介護士が求められる背景には、性別分業制があげられてきた。また、ホックシールドが提起した「感情労働」の問題も、介護産業では指摘されている。しかし、男性利用者と男性介護士の間に、ホモソーシャリティの問題が存在するとは全く気づいていなかった。このことは、団塊世代が年をとっていく中で、浮き彫りになってくるかもしれない。

*1:関西テレビ「痛快エブリデイ!」(http://www.ktv.co.jp/b/everyday/)です。関西限定なので他地方にお住まいだとご存じないかもしれません。桂南光がメインパーソナリティで毎日やっている地域密着型情報番組です。毎週木曜日は「モーレツ!怒りの相談室」という企画。視聴者(怒り主)からの投稿で、番組側が取材して解決案を探ります。関西に住んでると、企業や行政ともめると法的措置の前に、怒り主にファックスしようかなーと思ったりします。私も、近所のクリーニング店ともめたときに、送ろうかと思いました。

*2:母親自身の希望はわからなかった。番組側もそこはスルーらしい。

*3:付言だが、施設側の対応として、「お母さんも(男性介護士の介助で)喜んでますよ」との発言があったらしい。これは明らかにセクハラ。

*4:もちろん、山根さんは、介護職がパート労働化されているため、収入源となりにくい(適切な給与が支払われていない)ことが、性別分業を構造化していることも、後に指摘している。