池田晶子『リマーク』について

以前のエントリー池田晶子の新刊を面白くないと評した。その後、この本『リマーク』を入手できたのでパラパラと読んでみた。

リマーク 1997-2007

リマーク 1997-2007

この本は、いままで読んだ池田晶子の本の中ではいちばん面白い。断章(メモ)の連続で、一貫性はないのだが、たしかにこの人は哲学をしていたのだなという気はする。ただしヴィトゲンシュタインの影響が大きすぎるし、その手のひらを出ていない。

断章は、こんな感じ。

「愛」
または
「共感」
とは、これコイツであると同時に、げんに他の誰かでもあるということである

共感の原理とは、つまり、そういうことである

私が、彼に、共感するのではない
これが、彼で、げんにある、すなわち
彼は私である
というこのことが、共感するというそのことなのである

事態において、<x>という主語は、置き場所がない
(84〜85頁)

これはたしかに哲学的思索であるが、このことはヴィトゲンシュタインによって十全に語られている。この本の全体が、ある意味、この断章の変奏であると言える。ちなみに本書のタイトル「リマーク」は、ヴィトゲンシュタインの著書 Philosophical Remarks から取ったものと思われる。

私は池田晶子に対して、きびしすぎるのかもしれないが、池田の最大の難点はオリジナリティがないということであろう。(少なくとも私にはそう思える)。