意識と〈私〉

なぜ意識は実在しないのか (双書 哲学塾)

なぜ意識は実在しないのか (双書 哲学塾)

読了しました。とても刺激的で面白い本だと言える。テーマは永井さんがずっとこだわっている「〈私〉」と「言語」のことである。それを、「意識」という面から切ってみた。チャーマーズの、例の「ゾンビ」の例を素材にして、チャーマーズ批判をしていくところはなかなか面白い。議論内容はと言えば、これまで永井さんがしてきた議論の枠内で進んでいくのだが、最後のあたりで、私の特権的な経験の再帰的自覚というものが、実はその特権性の消去を本質とする「言語」によって可能となるという構想が出されていて、これはかなり刺激的であった。あとは、時間についての記述で、間違っているのではないかと思われる箇所があったので、これについてはどこかでちゃんと書くことにしたい。

前のエントリーでも書いたが、やはりこの議論パラダイムは、ヴィトゲンシュタインの手のひらであるということを、再確認できた。永井さん本人もヴィトゲンシュタインの洞察に導かれてここまで来たということを本文で匂わせている。言葉のうえでは、ヴィトの私的言語論は誤謬であると断言しているが、それもパラダイムに乗った上での内部批判のように読める。最初に出てくる「ブトム」という造語も、ヴィトへのオマージュであろう。もちろん、永井さんの側からしてみれば、自分の本来的な哲学的問いが、たまたまヴィトと似ていたという順序であろうから、こういうのは言いがかりのように聞こえるにちがいない。それは重々承知のうえで、私としてはヴィトから脱出する道を探したいと本気で思っている。でも、永井さんの説にはいずれちゃんと絡ませてもらいます。私が以前に書いた論文だけでは終えられないと思うから。