河野哲也『善悪は実在するか』

善悪は実在するか アフォーダンスの倫理学 (講談社選書メチエ)

善悪は実在するか アフォーダンスの倫理学 (講談社選書メチエ)

購入してパラパラと見ただけであるが、これは賛同するにせよ批判するにせよ、とても重要な提起を含んだ書である。生態学理論であるギブソンアフォーダンスの考え方を、倫理学へと応用しようというものだ。フッサール現象学や、分析哲学における実在論反実在論論争を批判的にとらえ直し、アフォーダンス論の視点から、道徳の(河野さんが言うところの)実在性を説く。フーコーアガンベンの法/権力理論も参照される。最後には、ノディングスやギリガンらのケア倫理、修復的司法の可能性、イグナティエフの「ニーズの政治学」論など、多方面へと議論が及ぶが、一貫しているのは、徹底して「具体的な他者から倫理学を再構築していこう」とする河野さんの態度である。それに対しては、非常に好感が持てた。

議論が多岐にわたるため、精査していけばたぶん穴だらけだとは思う。しかしそれでも、重要な試みであると、私はまずは拍手を送りたい。