加藤秀一『〈個〉からはじめる生命論』と日本の生命倫理
- 作者: 加藤秀一
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2007/09/27
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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明治学院大学の社会学者である加藤秀一の新刊が出た。「生命倫理」というパラダイムを脱出することを目指そうとしているように見える重要書である。タイトルの「個からはじめる」というのは、加藤によれば、「個人」や「自己決定」を不動の真理とするのではなく、かといって「自他合一」「関係性」に淫するのでもない道のことを言う。
そうではなくて、「個」にあくまでも定位しながら同時にそれを疑うこと、たとえば「自己決定権」という概念に「他者」や「関係性」を対置するのではなく、その射程を内在的に考察することを通じてその限界を明らかにすることである。(5頁)
内容は、脳死、パーソン論、中絶、ロングフル・ライフ訴訟などなど。これからきちんと読みたいが、パラパラっと見た印象では、私の『生命学に何ができるか』の議論射程とかなり重なったところを論じているという感じ。それにしては、↑の本への言及や引用が見当たらないのが不思議ではあった。と思ってパラパラ見ていたら、註のところに、「なお、森岡のこの本は、本書で言及する諸問題にかんする参考文献として最上位に置かれるべき必読書である」(227頁)と書かれてあった。だったら、大庭氏や井上氏のように本文にがんがん引用して批判してくれー、と言いそうになったのであった。
いずれにせよ、日本の生命倫理は、加藤の本も含めて、英語圏にはない独自の路線を歩み始めていることは明らかなように見える。それは、一部の人たちが切望するような、「東アジア独自の倫理を!」というようなものとは違ったものとして姿を現わしつつあるように私には見える。