祝婚歌

 友人が結婚式の披露宴で、何か出し物をして欲しいというので、「歌でも歌うか」とネットで検索した。出来る限り、女性蔑視や強制異性愛っぽいものを避けようとすると、ほとんど何も残らない。そして、私の好きな歌はたいてい凶事の最中をうたったもので、「辛いときこそ頑張ろう」みたいな歌詞で使えたものではない。
 参考までに調べていると、吉野弘の「祝婚歌」にあたった。

祝婚歌

二人が睦まじくいるためには/愚かでいるほうがいい/立派すぎないほうがいい/立派すぎることは/長持ちしないことだと気付いているほうがいい/完璧をめざさないほうがいい/完璧なんて不自然なことだとうそぶいているほうがいい/二人のうちどちらかが/ふざけているほうがいい/ずっこけているほうがいい/互いに非難することがあっても/非難できる資格が自分にあったかどうか/あとで/疑わしくなるほうがいい/正しいことを言うときは/少しひかえめにするほうがいい/正しいことを言うときは/相手を傷つきやすいものだと/気付いているほうがいい/立派でありたいとか/正しくありたいとかいう/無理な緊張には/色目を使わず/ゆったり ゆたかに/光を浴びているほうがいい/健康で 風に吹かれながら/生きていることのなつかしさに/ふと 胸が熱くなる/そんな日があってもいい/そして/なぜ胸が熱くなるのか/黙っていても/二人にはわかるのであってほしい

吉野弘『贈るうた』(10〜12頁)

これはどうなのだろう?私は読んでいて、ぐったりしたけれど、世の新郎新婦は詠まれてうれしい内容なんだろうか?
 私は、結婚相手には無理な緊張に色目を使いまくって、立派で正しくあろうと空回りして欲しいと、心底思う。そして、私もそうありたいと思う。さらに、胸が熱くなったなら、ちゃんと言葉で伝えて欲しいし、黙っていて伝わったはずと思い込まないで欲しい。光ばっかり浴びてたら干からびるので、たまには冷水も浴びせて欲しい。それで長持ちしないのなら、それだけの縁だと思う。
 結婚式は本当に難しい。自分が理想とする結婚生活ではなく、結婚する当事者の理想とする結婚生活を推察しつつ、自分のポリシーに反しない出し物なんて、できるのだろうか…なんとか友人の結婚を祝いたいと思っています。
 
 

贈るうた

贈るうた