子産みモノ

 柄本三代子は出産の医療化による妊婦管理について、1999年の『女性学年報』で論じた際、「抵抗する素人」として、出産をテーマにした漫画を取り上げている。以下は内田春菊『私たちは繁殖している』への言及である。

私たちは繁殖しているイエロー (角川文庫)

私たちは繁殖しているイエロー (角川文庫)

内田春菊による資料に?はより直接的抵抗を示している。一ヶ月検診で「一応」「念のため」との紋切り型で医師によってリスクが布置される。しかし彼女は「母乳だけで育てていると新生児黄疸というのが長びく」という知をすでに手中にしている。ここでその知が「正しいか、正しくないか」ということは問題ではない。肝心なのは医療における健康のスタンダードを武器にして彼女が抵抗している点である。実はこのように健康のスタンダードを伝播普及させつつ人びとの日常生活へ公権力が介入していくということはパラドックスが潜んでいる。公権力が切りこんだその刀で、素人たちによって切り返される可能性も増えてくるのだ。

(柄本三代子「健康の知、素人妊婦の知――きわめて身体的な抵抗と快楽の実践――」『女性学年報 第20号』日本女性学研究会女性学年報編集委員会、1999年、163頁、資料は割愛した)

柄本さんは、「たま・ひよ」など、出産雑誌によって、妊婦管理が進む一方で、管理される側の学び方によっては、管理に抵抗しつつ知を手に入れることのできる可能性を指摘する。
 
 この論文を読んでいると、子産みモノと言うようなジャンルが、ここ数年流行っていることに気づく。思い出せるものを列記。

そういうふうにできている (新潮文庫)

そういうふうにできている (新潮文庫)

出産時に、腹の中に異物がいて気持ちが悪いことをはっきり書いているエッセイ。このあと、さくらさんは息子の育児を積極的にエッセイに取り入れていく。この路線では、ほかには、よしもとばななど。

贅沢なお産 (新潮文庫)

贅沢なお産 (新潮文庫)

バブル世代の子産みが描かれる。ださい妊婦服は着たくないし、子産みも気に入った助産院でしたい。消費の選択肢として、様々に子産み関連の商品があることが紹介されている。「会陰切開がおそろしい」という率直な感想は、私も同感だ。想像すると、ものすごく痛いのだけれど・・・。「出産=痛い=我慢するのが母の愛」というイメージはなんとかならないんだろうか。

命 (新潮文庫)

命 (新潮文庫)

不倫相手の子どもを、癌で余命幾ばくもない元恋人と、共に生み育てると決意する柳美里自身の話。あんなに「もう、明日にだって死にたい」と書いていた柳さんが、なりふり構わず生に執着する姿はすさまじい。

キャリア こぎつね きんのもり 5 (クイーンズコミックス)

キャリア こぎつね きんのもり 5 (クイーンズコミックス)

こちらは、親戚の子を引き取って育てるキャリアウーマンの話。夢物語みたいなところはあるけれど、少しずつ距離を縮めて子どもと一体感を得ていく主人公が生き生きと描かれる。自分が産んだ子でなくても、愛せるし育てられるし、紛れもなく親になることができることが、あっさり語られる。

うさぎドロップ (1) (FC (380))

うさぎドロップ (1) (FC (380))

男性を主人公にした育児ものはないかな、と考えていると思い出した。こちらも親戚の子を引き取って育てるシングルサラリーマンの話。ロリコンにあらず。親になる、というよりも、子どもと暮らすということに主眼が置かれる。でも、対象は女性向けの漫画だなあ・・・。男性向けと銘打った育児漫画はあるのだろうか?