岡野八代『シティズンシップの政治学』

シティズンシップの政治学―国民・国家主義批判 フェミニズム的転回叢書

シティズンシップの政治学―国民・国家主義批判 フェミニズム的転回叢書

岡野さんのこの本は、私の目標とするもののひとつである。ロールズやアッカーマンの正義論を、他者への配慮を欠いた、同質の集団内における分配論であると批判する。つまり、分配という主題だけでは正義の問題は扱えない、と主張する。

全く同感である。私自身に即して言えば、承認の問題が気になりつつも、分配の問題に特化して考えてきた。しかし、そもそも分配とは、ひとが在るためにこそ必要なものであり、ひとが在るということそれ自身は、分配の問題系ではうまく扱えないように感じる。分配ではうまく扱えない<誰かがここに在る>ことの承認のためにこそ、分配は要請されるのであろう。

岡野さんはそのあたりは、とりわけ英米圏のフェミニズムを参照しながら(「続きを読む」で文献を挙げています)、「他者のニーズ」や、「親密圏におけるケア関係」を手がかりに、正義の問題は分配だけではないことを示していく。だが、それらじたいは正しいと思える「他者」や「ケア関係」といった射程で、いったい何が論じられたのか私には不明確な部分もある。「ひとは依存関係の中にある」ということを肯定してもよいにせよ(かりに、全く依存関係がないという状態があったとしても、論理的には「依存関係がゼロの関係」とは言える)、そこから何が言えるのか、「そんなものは当たり前だ」で終わってしまわないのか、そこらあたりは微妙なところであると思う。

いずれにせよ、正義をめぐる規範理論は、分配も承認もどちらも求めてよいということを、本書は教えてくれる。

以下、(私も一応目を通したことがある)参照されている、あるいは本書に関連する文献です。


Justice and the Politics of Difference

Justice and the Politics of Difference

Intersecting Voices: Dilemmas of Gender, Political Philosophy, and Policy

Intersecting Voices: Dilemmas of Gender, Political Philosophy, and Policy

Inclusion and Democracy (Oxford Political Theory)

Inclusion and Democracy (Oxford Political Theory)

Justice Interruptus

Justice Interruptus

Redistribution or Recognition: A Philosophical Exchange

Redistribution or Recognition: A Philosophical Exchange

Justice, Gender, and the Family

Justice, Gender, and the Family

The Claims of Culture: Equality and Diversity in the Global Era

The Claims of Culture: Equality and Diversity in the Global Era

Love's Labor: Essays on Women, Equality, and Dependency (Thinking Gender)

Love's Labor: Essays on Women, Equality, and Dependency (Thinking Gender)

The Subject of Care: Feminist Perspectives on Dependency (Feminist Constructions)

The Subject of Care: Feminist Perspectives on Dependency (Feminist Constructions)

ちなみに、日本での議論の蓄積としては以下。

現代フェミニズム理論の地平―ジェンダー関係・公正・差異

現代フェミニズム理論の地平―ジェンダー関係・公正・差異

フェミニズムとリベラリズム (フェミニズムの主張)

フェミニズムとリベラリズム (フェミニズムの主張)

産む産まないは女の権利か―フェミニズムとリベラリズム

産む産まないは女の権利か―フェミニズムとリベラリズム