ミャンマーからの「僕たちは小声で連呼する人間はいらない」という声

 ニュースで聞いているだけだが、現在もミャンマーの状況は難しい。「すばる」12月号に土佐桂子「ミャンマーのいま ブログから見えること」というレポートが載っている。ミャンマーでは厳しい情報統制が敷かれている。土佐さんは、1998まで続いたネーウィン政権の一党独裁により、「政治」という領域が党の独占物になったという。政治について語ることは、命を賭けることになった。内心で活動家に共感しても、「政治運動家」とみなされ、密告されることを恐れなくてはならない。よって、自分のポリシー(政策)を口に出すことは難しい。
 しかし、ついにインターネットがミャンマーにも導入され始めた。ネットカフェがコーヒー二杯分ほどの値段で、利用できる。フリーのメールアドレスの使用は制限されているが、人々は次々と利用可能なサービスを探しだし、政府といたちごっこで抵抗している。在外ミャンマー人が中心となる海外のNGOと、連携もすすめられている。今回のデモの様子も海外の拠点を通じて、大々的に世界に発信された。(しかし、その後、9月27日にインターネットは使用できなくなり、復旧したのは10月9日であったという。)
 その中で、ビルマ語のブログが立ち上げられている。学生を中心とした、在外ミャンマー人のブログは「政治」に対する発言が多い。だが、国内のものは、日常生活や音楽、恋愛についてなど、「政治」には触れないものがほとんどだ。土佐さんはその中で、「政治」について発言するいくつかのブログを紹介している。たとえば、ヤンゴン在住の女性が、国内からデモの様子を伝えている。*1また、41歳の男性は、10月15日に王朝時代の国王をとりあげ、遠まわしに現政権への批判ともとれる記述をしている。
 最後に、土佐さんが取り上げているブログの文章は、印象的だった。8月24日に「僕と外に出て歩こう」という題名でアップされたものだ。書き手は、本人の書くプロフィールによれば、ヤンゴン工科大学を中退したIT技術者である。22歳男性となっている。以下のように、土佐さんが紹介し、該当部分を翻訳している。

僕がいまこれを書いている時刻は二〇〇七年八月二二日一一時四六分/今日はこの文章を読み直していた/明日の計画はたてた。胸が高鳴る/「余分な仕事だと思う」と言いに来るひとがいる/「心配なんだ」という人もいる/僕も彼らは尊重するが、「自分の道を自分で歩くだけさ」と軽く言い返す/君たちも僕たちも、足を振り上げて歩くだろう。意識を張りつめ歩くのは大変だけど、どんどん歩く、思い切り歩く

大人達にもうんざりだ/彼らは様子を見てみようという/僕たちはどうだろう/僕たちが鐘を鳴らさなければ/今度は僕たちの次の世代が、みなの将来のために、外に出て歩く/僕たちは大人もついてくることを期待する/歓迎する

僕らは政治活動をしているんじゃない/僕ら自身も政治活動家じゃない/僕らは国民/国民は国民のするべきことをする/国民は国家の証

僕たちは小声で連呼する人間はいらない/誰も無理には誘わない/僕たちはずっと小声で叫びつづけてきた/一九年間/もう十分だ

僕はまだ若い/僕はなんのためにするのかということも知っている/僕はこの先も続けると知っている/僕はどんなことになるかも分かっている/でも僕は外に出て歩く

ともだちよ、きみたちもできる限り続いてほしい

 この文章の上部には、八月二二日のデモの、ユーチューブの映像が貼り付けてある。これは、後の九月の僧侶たちのデモに先駆け、政府によるガソリン値上げ発表後すぐに起こったものである。
 彼はデモに参加したのだろうか。いまだにブログには戻ってきていない。
(土佐桂子「ミャンマーのいま ブログから見えること」『すばる』12月号、190ページ)

私は彼のともだちになれるだろうか。 

*1:タイムズオンラインに紹介されたhttp://www.timesonline.co.uk/tol/news/world/asia/article2539435.ece