お前ごときがサバルタンなものか!

 今年の6月末にガヤトリ・スピヴァクが来日する件で、私はこのブログでぐちゃぐちゃ言っていました。そこから、サバルタン研究者についての議論が始まりました。

[font-da][集会][海外]ガヤトリ・スピヴァク来日
http://d.hatena.ne.jp/gordias/20070614/1181823313
[kanjinai][雑記]「ここにサバルタンがいる」と言えるのか?
http://d.hatena.ne.jp/gordias/20070615/1181886496
[font-da][雑記]「サバルタン」って言うな!
http://d.hatena.ne.jp/gordias/20070615/1181917951

それでですね、結局、スピヴァクの話は聞けずじまいだったのですが、web上で沖縄講演会の報告をアップしている方がいらっしゃいました。実は、沖縄講演会は、スピヴァクの体調不良で中止。また、スピヴァク剽窃疑惑が持ち上がり、スピヴァク抜きのスピヴァクの会は紛糾したようです。
 報告しているのは、社会理論・動態研究所研究員の打越正行さん。確認作業を、メモを参考に琉球大の上間先生さんと行ったということです。和文と英文で連載形式のブログを書かれています。公式な報告ではありませんが、実名を出し、この講演会について日本だけでなく、世界に発信するという強い意志が感じられます。*1
 その中で、私がショックを受けたのは次の部分です。

以下は,その後のフロアとのやり取りです.
佐喜眞美術館長「最初にスピヴァクさんを招くことができなかったことについて本当に申し訳ありませんでした.多くの参加者は,スピヴァクさんの思想が今の沖縄の抵抗運動において,いかにヒントとなるのかを聞きにきたと思うので,学者の業績の話ではなく,現在の沖縄でスピヴァクを読む意義について話し合いたい.」
(英文略)
参加者A「【前半部分省略】失礼な言い方だが,研究者の世界の業績などは,言い方は悪いんですけど学者のエゴだと思います.私はそのような議論には興味はなく,この沖縄でスピヴァクを読む意義を参加者とともに検討したい.」
打越「スピヴァク講演会06」『討論の広場』(http://blog.goo.ne.jp/usrc2/e/9b1f64a70c4500903240e808e344a2aa

これに対して、本橋哲也さんが会場から煽りがあったと発言します。さらに、このように言います。

本橋「あなたがた(コメンテーター)はスピヴァバクをよんだのか.あなた方はサバルタンなのか.ちがうでしょう.サバルタンとは,ベンガルで,強制労働に従事させられ,自らのおかれている状況を言語化できずに,本という概念すらしらない,そのような子どもたちのことでしょう.彼女はその子どもたちに学校をつくり,そして,そこを毎年訪問しているのです.そのような研究者はいますか.この会場にはサバルタンはいない」
打越「スピヴァク講演会14」(http://blog.goo.ne.jp/usrc2/e/12bc3137e8343d3c123160b19cad20c1

この発言に対し、打越さんはこうコメントします。

 沖縄人はサバルタンじゃないか・・.確かに第三世界の女性や子どもたちに比べれば,多くの沖縄の方は文字も書けますし,本も読めます.私は『サバルタンに語ることはできるか?』しか読んでいませんが,彼女がいいたかったことは,更なるマイノリティ探しではなく,声の固有性を消すなということではなかったのではないでしょうか?その固有の関係性,場所性を消すな,ということであって,文字が書けるのだからサバルタンじゃないなんで彼女が言うはずないと思います.
(同ページ)

これは「誰がサバルタンなのか?」という問いと、「お前なんかサバルタンじゃない!」という対立図式にみえます。また、ここには、打越さんによって、新城さんという沖縄人研究者という、「沖縄エリート」(打越)が、剽窃された可能性があるときに、「お前はすでにサバルタンじゃない」として発言が封じられる構図も描かれています。

 いつもどおりになりますが、この報告の信憑性は個人で検討してください。そして、この件についても、公式の報告があると、ことははっきりすると考えれます。これが、本当にあったことだとすれば、大変問題です。本橋さんの、この件に関する意見はぜひ聞きたいです。誤解なら、誤解で解いたほうがいいと思います。

追記:コメント欄で紹介いただいた、秀逸なまとめと批評。
http://d.hatena.ne.jp/pilate/20070808

追記2:コメント欄で本橋哲也さんのお名前を誤表記しているのをご指摘いただいたのに、私は修正していませんでした。その点について以下のご批判をいただきました。

些細な、とおっしゃるかもしれませんが(私には徴候的な誤認に見えますが)、基本的な「事実」でもあります。「サバルタン研究者が」ではなく、誰もがサバルタンを作る可能性があることを自戒を込めて銘記しておきますね。

肝に銘じておきたいと思います。
(現時点では、本橋さんのお名前は修正してあります)

*1:実際的に世界に発信できている/できていない、は別として、これは覚悟が必要な行為だと思います。