私、産みたくありません。

 昨日、会陰切開への恐怖感について書いていると、kanjinaiさんとshohojiさんがこんなコメントを下さった。

shohoji 『切らなかったら、場合によっては引き裂けて、もっと痛い目にあうのではないだろうか。
出産の際には、「痛いからいやだ」とか考える余裕はないし、このくらいの痛さなど、後になれば痛いことなど忘れちゃうものだと思います。』 (2007/07/08 01:25)

kanjinai 『会陰切開については、ずっと賛否両論の議論があります。ウェブでも、たとえば、反対:<http: //www5.ocn.ne.jp/~kmatsu/osan/164sekkai.htm><http://www.sairosha.com/w- plus1ein.htm> 賛成:<http: //www2s.biglobe.ne.jp/~SYYYT/zokuboya/gensou.html>などがあります。しかしこういう情報が増えると、また、女性たちは何を信じていいのやら分からなくなり、いっそう妊娠出産から遠のいていくのではないかなあ。』 (2007/07/08 02:19)

読んでいて、「だから、イヤなんだ」と心底思った。
 これは、セックスについて繰り返し、今でも使われる常套句じゃないか。「女は、男がリードするから安心して体をまかせればいい」「何も知らないままのほうが、男にかわいがってもらえる」「セックスなんて、本能で体が勝手に動く」こういうのは、全部嘘だ。私のまんこは、私が守らないと、傷つけられ、主体性を奪われる。そう頭でばかり考えると、セックスから遠のくことになるが、私は「女の悦び」と「私のまんこ」なら後者を大事にしたい。
 そして、今度は「出産なら大丈夫」と言われて、信じられるだろうか?これだけ、女の体を乱暴に扱う社会で、「子どもを産むときだけ大事にしますよ」と言われて信じられるか?そもそも、そんな差別待遇が嬉しいだろうか?
 私は「産む機械」発言では、なんの腹も立たなかった。*1実際に、社会では女性は「産む機械」だからだ。若くて生殖器付きの女の私は「どうして産まないの?」「あなたが産まないから少子化が進む」と冗談にしろ、本気にしろ、男や女が迫る。私は、変な顔で笑いながら「そうですね・・・また、そのうち」と煮え切らない答えを返す。結局、社会にとっては女は無知なほうが、かわいくて、便利だ。産まない選択は、許されるけれど、それは反抗的な少数の、「変な女」にされるリスクを背負う。
 産婦人科の分娩台で、股を拡げて、医者(たいていは権力を持った男)にハサミでまんこをバチンと切られる恐怖。その構図が怖い。私の母は、私を産むときに、陣痛促進剤を使ったのだという。まだ、インフォームド・コンセントなんてなかった時代だ。母は、「大丈夫だから」と言われ、点滴を打ち、私は産まれた。そして、数年後、母は同じ薬が子宮破裂の副作用で使用中止になったニュースをみた。
 私は「怖い」。会陰切開も怖いけれど、出産について不安を口に出すと「そんなの、なんとかなるわよ」と聞いてもらえない状況が怖い。こんな社会で、オニババにならずに生きてく*2ことなんてできるのだろうか。出産について口を閉ざし、「産まないの?」という問いを向けられるたびにつり上がった目で「差別!」と叫ぶのは、叫びたいからではなくて*3、黙らせられるのが怖いからだ。
 
 私、産みたくありません。無知なままでいたくありません。自分のまんこが支配されることが怖いです。黙りたくありません。私のまんこは赤ん坊の通り道じゃない。私のまんこは、私のものです。そんな生き方だと「女だけが享受できる産む喜びを逃す」と言われても、すでに私は女であることが不幸です。
 ・・・私はなぜ、女に生まれてきたのだろう?私は女に向いていないと思う。どんな痛みがあろうともまんこを社会に献上できる立派な女になんて、私はなりたくない。たとえ、オニババと呼ばれても。

オニババ化する女たち 女性の身体性を取り戻す (光文社新書)

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[追記]

 哲学系なんだから、「それでも産む女」について考察せよ、とのブックマークコメントを頂いて、「なるほどなあ」とか思っていたのですが、私はこの問題についてはまだ取り乱すので精一杯です。代わりに、と言ってはなんですが、LPCの北原みのりさんが紹介している、与謝野晶子の詩を孫引きします。

若いお医者がわたしを慰めて、
生むことの幸福を述べて下された。
そんな事ならわたしの方が余計に知ってゐる。
それが今なんの役に立たう。

知識も現実で無い、
経験も過去のものである。
みんな黙って居て下さい、
みんな傍観者の位置を超えずに居て下さい。

与謝野晶子「第一の陣痛」(北原みのり「第一の陣痛」『ラブピースクラブ コラム』)http://www.lovepiececlub.com/kitahara/archives/001098.html

産むと言うことは、「語りえぬもの」なのかなあ・・・。毒気抜かれました。

*1:いや、ホントはちょっと腹立ったけど。未だにTシャツを買おうか迷っている。

*2:三砂ちづる「オニババ化する女たち 女性の身体性を取り戻す」では、散々いかに出産しないと不幸になるのかが語られる。もう不幸でいいです。

*3:もちろん、フェミニズムの弊害でもない。恩恵ではあっても。