フリーターズフリー

 アマゾンから届いたので、少しづつ読んでいる。とりあえず、冒頭の対談、ビッグイシューの発行者へのインタビュー、栗田さん、野崎さんの文章に目を通す。

 対談では、フリーターズフリー(FF)のコアメンバーの自己紹介がなされ、本書が刊行に至ったいきさつや、目下の問題意識がざっくばらんに語られている。
 FFは「有限責任事業組合」という組織形態を取っている。世にある営利企業、同人誌的な私的サークル、学会とは異なり、志をもった人が出資金を持ち寄り、協同で事業を営む。本書の出版は、働くひとがつながり支え合う新しい方法を提案する、という意図もあるようだ。

 FFのウェブサイト。
http://www.freetersfree.org/

 はてなにブログが開設されている。
http://d.hatena.ne.jp/FreetersFree/

 ビッグイシューの発行者の佐野さんのインタビュー。ビッグイシューとは、都市の路上で野宿者が販売する雑誌である。一般の書店では売っていない。定価200円の雑誌を一冊売ると、売り手に110円が支払われる。仕事と収入を提供し、野宿者の自立を支援しようというわけだ。

 ビジネスの手法を用いて、社会問題の解決に貢献しようとする「社会的企業」は、日本ではまだ少ない。ビッグイッシューはその貴重な試みのひとつ。佐野さんが雑誌を販売しようと思いついたいきさつ、ビッグイシューを立ち上げるまでの苦労話が興味深い。

 ウェブサイトがある。

http://www.bigissue.jp/tachiyomi/saishin.htm

 実は、私はまだ読んだことがない。今度購入してみたい(販売スポットは、上記のウェブサイトで公開されている)。

 「”ないものとされたもの”これくしょん」と題された栗田隆子さんの「観察ノート」。ユニークな視点と、簡素だが思考の奥行きがじんわり伝わってくる一連の文章が印象に残った。その出だし。

 やりたいことは書評やエッセイではない。強いていえば、「観察ノート」といえるだろうか。「見えてきたもの」を書くこと、それに尽きる。
 「世間様が見せたくないと思っているもの」を見たい。「自分が見たくないと思っているもの」も見たい。見たいという願いにとりつかれた「観察」とそれに基づく「報告」を集めた「これくしょん」、それが私の書きたいものだ。見たくないものを見ようとすると、痛みを感じる。その場合、痛みを覆い隠さないように努めた。痛みは痛みとして言葉にしなければならない。ただ、その痛みに淫してもいけない。痛みの中に己の実感を求めることは何より危険だから。最も無意識かつ強烈な自己中心となるから。「世界の中心で」私は生きているわけではない。とはいえ、世界の一部を占めている。見たいと願い、祈れば、見えてくるものがあると信じること。そこからこの「これくしょん」は生まれた。……(150ページ)

 栗田さんは学生の頃にシモーヌ・ヴェイユを研究されていたそうだ。このような視点はヴェイユ(彼女も自身の観察にもとづくノートを書いた)との繋がりを感じさせられる。「これくしょん」では、女性フリーター、秋葉原サウンドデモ、雑務(家事労働)についての考察に、はっとさせられる論点がいくつもあった。今後の号で、続きを読みたい。

 野崎泰伸さんの「生活保護ベーシック・インカム」。日本の格差社会化の進行にともない、社会保障政策としての「ベーシック・インカム論」の紹介や、導入についての呼びかけが、ちらほら聞こえるようになってきた。

 野崎さんは「人間の生存維持に必要な最低限の財」を再分配するベーシック・インカムの理念に一定の評価を与えつつも、それが貧困者・低所得者に貼り付けられた「スティグマ」(=貧困者・低所得者は社会の落伍者だという偏見)をなくし「生の無条件の肯定」を目指す政策としては不十分で、福祉受給者の個々のニーズを顧慮しない問題をはらむと指摘する。

 ベーシック・インカムの対案として野崎さんが提案するのは、現行の生活保護制度の改良である。

生活保護法」
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S25/S25HO144.html

 ベーシック・インカム法を新たに制定するより、生活保護法を改良し、福祉受給者の個々のニーズに対応する方が望ましいとする。生活保護を受給する者は社会の落伍者であるという考え方は、ベーシック・インカムの導入によって「回避」するのではなく、「人々の価値意識を規定する私的所有の論理」を批判することで「解消」されねばならない。

 「貧困者・低所得者は社会の落伍者」「生活保護を受けるような人間は無価値な存在」という人間観を内面化している人、また、そうした見方を内面化させる社会のあり方に、一石を投じる内容だ。

 すべてに目を通すまで時間が掛かりそうだが、この充実した内容で1500円は安いと思う。生田さんのフリーター論は、それだけで新書一冊分ぐらいの字数がありそうです。