植物と帝国を中絶で結ぶ

植物と帝国―抹殺された中絶薬とジェンダー

植物と帝国―抹殺された中絶薬とジェンダー

ロンダ・シービンガーの新著『植物と帝国』を読み始めている。大航海時代、カリブの女性たちは、オウコチョウという植物を中絶薬として使っていた。ヨーロッパ人をその植物を持ち帰り、植物園で盛んに育てながら、それが「中絶薬」として使えるという知識だけは広まらなかった(広めなかった)。

ここに働いていたジェンダー・ポリティクスを科学史的に解明するのがこの本のテーマだ。シービンガーが引用している、1598年のイギリスの内科医アンドルー・ボードの言葉も意味深である。

[中絶をひきおこすという]多くの薬の処方、あるいは・・・・極度に便通をおこさせるものや薬液、他にも飲み薬の下剤などがあるが、これらについて私はここではあえて話そうとは思わない。女性のたくさんの花[子供]が意図的に中絶されるような知識に光を当てぬように」。(30頁)

これらの結果、

もっと一般的に言えば、科学の急速な発展の時代に、多産抑止薬に関するヨーロッパの知識は衰えていったのである。ジェンダー・ポリティクスは、特有の知識群ではない、この場合、特有の無知群を明確に浮き彫りにした。(314頁)

植民地主義と植物収集の研究というのはよくあるが、それに、中絶薬としての植物という観点から迫ったのが彼女の冴えてるところ。

ヨーロッパで滅んだこれらの知識は、今日でも、カリブの女たちのあいだで生き残っているという。ある女性は、裏口に生えている植物を採ってきて、「女性が妊娠を防ぐため、性行為の後、この植物で作ったお茶を飲み、それで体を洗うのだと教えてくれた」(316頁)とシービンガーは言う。

いまから20年ほど前に、スペインで開かれた国際科学史学会でシービンガーとやりとりしたことがある。私が日本の生命倫理について発表したときに、フロアから質問してくれたのがシービンガーだった。そのときは、英語で応答するのでせいいっぱいだったので、いまとなっては質問も自分の回答も一切覚えていない。