がんになった医師のまなざし『がんとどう向き合うか』

がんとどう向き合うか (岩波新書)

がんとどう向き合うか (岩波新書)

発売されたばかりのこの本を読むまで知らなかった。額田勲さんが前立腺がんにかかっている。額田さんは、神戸みどり病院理事長で、80年代から90年代にかけての脳死移植問題では、精力的に市民と専門家の対話集会を開き、神戸生命倫理研究会の名を一躍有名にした方である。その後も、阪神淡路大震災のときには、孤独死していく高齢者の問題に警鐘を鳴らした。私も、何度かご一緒したことがある。

額田さんは、2005年に前立腺がんであることを検査によって知り、その年に手術を受けた。1940年生まれだから、まだ67歳である。額田さんは次のように書いている。

さらに一応がんを完治できたとしても、治療の結果抱え込んだ臓器障害が果たしてどんなハンディをもたらすのかと考え始めると、ことは単にいのちの長さだけが問題なのではなく、「自分もそういう年齢に達したのだ。自分の健康寿命もせいぜい数年かもしれない。むしろ以後のがん年齢をどのように生きるのか」と自問するようになり、今後の限られた時間を冷静に見極めることが大切ではなかろうかとの思いをひたすら強めた。ともかく一時的な不安、恐怖に駆られて、闇雲に治療へと駆け込むようなことが本当のがん治療なのかとためらわざるを得なかった。(166頁)

この本の最後のほうには、重度の黄疸にかかりながらも死の直前まで若い医学生たちの前で講演をし続けた故・中川米造さんの姿も活写されている。額田さんは、ご自分を中川先生に重ね合わせようとしているのではないか。

近い将来、私もまた中川先生のように「これがごく普通のがんの旅路の果てである」と言い聞かせながら、大阪空港、あるいは神戸空港のコンコースを歩むことになるだろう。自らの生きてきた人生を肯定し、幸せに死んでいける安心立命の境地にたどりつけるように、それまでなお人間的に生きる日々が許されることを願うばかりである。(226頁)

中川先生のように生き切りたいという額田さんの思いが、ひしひしと伝わってくる。