クジラ肉は余っています

星川淳さんの新刊、『日本はなぜ世界で一番クジラを殺すのか』を読んだ。

日本はなぜ世界で一番クジラを殺すのか (幻冬舎新書)

日本はなぜ世界で一番クジラを殺すのか (幻冬舎新書)

星川さんはグリーンピースジャパン事務局長だから、その立場から書いているわけだが、にもかかわらず本書はたいへんおもしろい。捕鯨問題となると、左翼でもいきなり右翼になったりするので、このこともおもしろいが、事実が一般に知られていないというのもまた面白い。次の事実も、たいへん興味深い。

2006年、捕鯨問題としてはちょっと毛色の変わったニュースが話題になった。"調査捕鯨"で捕ったクジラの肉がだぶつき気味だというのだ。噂のレベルではない。大本の情報は農林水産省の統計データで、水産庁捕鯨班もその事実を認めている。(152頁)

共同通信が2006年1月に水産庁遠洋課に取材したところ、「指摘された傾向は事実だ」とコメントしたうえで、「今後、販売先の拡大など、販売方法の拡大を検討する」と述べているから、水産庁も在庫が好ましくない量(多い)と認め、政府として販売促進に取り組むと宣言したに等しい。(165頁)

要するに、水産庁は国際会議などでいままで、クジラ食は日本の伝統的食習慣で、日本の食卓には欠かせないものだから、捕鯨を認めるべきだと主張してきたが、どうも事実はそれに反するようで、調査捕鯨で売りさばいているはずのクジラ肉が、実際には在庫超過になっているということらしい。この話は私も別ルートから聞いたことがある。

その結果、いま水産庁や鯨研は、捕鯨文化を守るために日本人は鯨肉をもっと食べましょうと言いはじめている。

興味深い倒錯である。