岩田正美『現代の貧困――ワーキングプア/ホームレス/生活保護』

現代の貧困―ワーキングプア/ホームレス/生活保護 (ちくま新書)

現代の貧困―ワーキングプア/ホームレス/生活保護 (ちくま新書)

岩田さんは著名な社会政策研究者である。本書が論ずる内容は、ずばり「貧困」なのだが、岩田さんは、「貧困問題がやっかいなのは、それが貧困だけで終わらないこと」、すなわち「多様な社会問題の背景の一つとなることが少なくない」ことだと述べている。たとえば「貧困は病気と深い関係にある」。
しかし岩田さんは、「貧困と社会問題との関係が、今日の日本社会で言及されることはほとんどない」と述べている。どうしてか。それに対する岩田さんの回答は「むしろ多くの社会問題は、貧困ではなく豊かさの結果として生じていることが強調されている」(強調引用者)というものである。中流家庭の子供たちが非行に走りやすい、病気はむしろ飽食によるメタボリック症候群に基づいている、などなど。
岩田さんは、もちろんこのような問題を切り捨てているわけではない。社会問題は「貧困だけが原因なのではない」と述べている。しかしながら、「すべての問題が「豊かな社会」の病理や「心の闇」として語られるようになってしまった観がある」という岩田さんの指摘は、私が『無痛文明論』に抱いている違和感ともつながるものだ。岩田さんも述べるように、中流層の問題もある。「心の闇」の問題もある。メタボリック症候群は大きな社会問題だろうとも思う。だとしても、貧困問題は大きな社会問題に変わりはないだろう。
岩田さんも言うように、「「不利な人々」のみが貧困に苦しむ」(帯文より)ということ、すなわち、二極化現象こそが問題の根底にあると思えてならない。つまり、私は『無痛文明論』のような、どちらかといえばマクロな文明論と、本書のような、時には実証研究も含むミクロな生活研究の両方を見ていかないと、社会全体の構造は捉えられないように思うのである。(岩田さんの本からの引用は、すべて166-167ページ)