バージニア工科大学事件とアメリカ映画

バージニア工科大学事件の犯人チョ・スンヒが、韓国映画オールドボーイ」の影響を受けているのではないか、ということをニューヨーク・タイムズが報道して英語世界では話題になっている。
(ヘラルドトリビューン版)
http://www.iht.com/articles/ap/2007/04/20/america/NA-GEN-US-University-Shooting-Movie-Inspiration.php

ここのところ英語系TVばかり見ているので、日本での報道がどうなのかいまいち分からないが、英語系TVではこの事件のことばかりずっと放映している。次々と続報が出てきて、お祭り騒ぎである。なかでも犯人が送りつけてきた写真、ビデオ、手記は何度も流されてインパクトが高い。そのなかで、韓国映画からの影響説が出てきたわけである。

私は「オールドボーイ」という映画を観ていない。だが、直観的に思うのは、米国メディアの一部が、またこうやって自国の病から目をそむけようとしているのではないか、ということだ。あの写真とビデオを見て私が最初に思ったのは、これは「タクシードライバー」のトラヴィスじゃないか、ということだ。「タクシードライバー」を観た人には説明不要だし、観てない人には説明できないのだが(これはいかにこの映画が優れているのかを証明しているのだが。(蘊蓄:ちなみに「パリ・テキサス」の主人公もトラヴィスという名前))、チョ・スンヒの病の核心部分は、すでにこの映画によって描き切られているように思うのである。鏡に向かって「Me?」銃シャキーン!!、みたいな。そしてあの映画のラスト近くの残虐性も連想されよう。

もし映画の影響を言うのなら、世界で最も残虐なアメリカ映画こそを取り上げなければならないであろう。そこを飛ばしておいて、韓国映画だとか指摘するのは、目隠しも甚だしい。「悪魔のいけにえ」やら「パトリオット・ゲーム」やら、殺戮場面が平気で描かれるアメリカ映画こそが、アメリカの残虐嗜好・連続殺害嗜好をもっともよく反映しているのであり、それこそがいつまでたっても銃を手放すことができないアメリカの病を象徴しているのである。

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追記:id:kagamiさんが、犯人の映像がTVで繰り返し流れたことで、真の狂気・邪悪が全米に流れ、犯人の思うつぼになったと指摘している。
http://d.hatena.ne.jp/kagami/20070420
そのうえで思うのは、その狂気・邪悪を涎を垂らして消費し快楽しようと待ちかまえていたものこそが全米の視聴者という怪物であり、TVはそれに応えるために映像を流したのではないのか、というのが私の言いたいことのひとつである。映画「ネットワーク」を想起せよ。視聴率のためにはキャスターすらライブで殺すTV局と、それを求める視聴者との共犯関係。

安倍首相の慰安婦問題への責任と反省とは?

安倍首相がニューズウィークウォール・ストリート・ジャーナルに「慰安婦」問題に関しての「責任」問題を語ったらしい。

毎日新聞による安倍発言の要旨

慰安婦の方々に人間として心から同情する。そういう状況に置かれたことに、日本の首相として大変申し訳なく思う。(軍による狭義の強制性はないとした過去の発言は)私が初めて述べたのでなく、今までの政府見解だ。ここで事実関係を述べることにあまり意味がない。彼女たちが慰安婦として存在しなければならなかった状況に、我々は責任がある。非常に苦しい思いをしたことに責任を感じている。河野洋平官房長官談話を私の内閣は継承している。

ポイントは、日本軍による狭義の強制性についての「事実」や「責任」については何も述べずに、慰安婦として存在しなくてはならなかった「状況」に対する「責任」を述べていることか。政府筋の作文技術はなかなか周到である。

あと、面白いのは各紙の反応、とくに、次の2紙を比べてみよう。

読売新聞
 さらに、「20世紀は人権が世界各地で侵害された世紀で、日本にもその責任があり、例外ではない」と述べ、慰安婦問題を人権問題と位置づけ、日本の責任を明確に認めた。

産経新聞
 一方で、首相は「20世紀は人権が世界各地で侵害された世紀だが、日本も例外ではない」とも述べ、戦時の人権侵害が日本だけの問題ではないことをにじませた。

(^_^)

NewsweekWall Street Journalは読んでみないといけないですね。ウェブに出るかな?

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追記:Newsweek 記事が出ていました(eireneさん情報による)

核心部分は、ここ。

We feel responsible for having forced these women to go through that hardship and pain as comfort women under the circumstances at the time.
http://www.msnbc.msn.com/id/18233740/site/newsweek/page/3/

「当時の状況下において、彼女たちが慰安婦としての苦難と痛みを味わうことを強制したことに対して、われわれは責任を感じます」(仮訳)

日本軍の強制連行については、まったく触れていません。