余計なお世話を言いたくなる

 tummygirlさんから、kanjinaiさんへの問いかけの記事が出されている。それに対しては、コメント欄で、kanjinaiさん自らが答えているので、終結ということだと思う。しかし、私はなんだか引っかかりを感じてしまった。
 これはルサンチマンなのだろうかと思うが、どうも大学人フェミニスト(特に、大学に教えに来るジェンダー論の先生たち)に、いいイメージを持てていない。そして、そのイメージを持っていることを、大学人フェミニストが問題視しているのかもわからない。
 というのは、私は以下のような文章を目にする機会があるからだ。大学で、ジェンダー/女性文学論を担当していることについての、文章である。学生たちを観察して、次のように述べる。

 少しまえに漫画の『NANA』を読んだときに、もっとも必要で、もっとも欠けているのはフェミニズムだと思ったけれど(妊娠や中絶をめぐる登場人物の苦悩や疑問は例えば『2年目の報告』が一冊ナナのテーブルの上にあるだけでずいぶんちがったものになっただろう)、学生たちの反応をみているとやはり大事なフェミニズムに関する知識がかの女/かれらから遠ざけられていると感じる。

(山田サキ「リブを『語り継ぐ』」日本女性学研究会ニュースVOICE OF WOMEN No.282)

これは、日本女性学研究会に入会すると送られてくる、ニュースペーパーに載っている文章である。*1日本女性学研究会は、年報を毎年出しており、大学人フェミニストの論文も多数載っている。また、会員にも大学人フェミニストの名前が連なっている。*2この文章は、多くの大学人フェミニストも思われる。
 私がこの文章を読んで、あまりいい気がしなかった。*3私は『NANA』を愛読する学生だった*4。そして妊娠や中絶をめぐる登場人物の苦悩や疑問に、自分を重ねてきた。そこに「フェミニズムの本があれば解決するのに」というようなことを言われると、非常に不愉快だ。人ひとりの命を孕んだ若い女の葛藤を、知識さえあれば解決すると切り捨てるやり方に疑問を感じる。
 山田さんは、フェミニズムが若い学生に浸透していないのを憂いて、田中美津を読ませたり、フェミニズムの知識を教えることに、気概を燃やしてこの文章を書かれたのだろう。私は、その姿を、啓蒙大好きフェミニズムとしてしか、見ることができない。山田さんは文章をこう結ぶ。

 「ウーマンリブの激しさに感動した」とコメントを書いた学生は、これから生きていくなかで抱えるであろう困難をはねかえしていくようなアイデアをリブのメッセージのなかに見つけることはできるだろうか。「美しくなることは楽しみでもある」と書いた学生は、美しくないと見なされることへの恐怖をうまいことやり過ごす手がかりを見つけることができるだろうか。そうやってひとりひとりのフェミニズムを見つけていく手伝いができるなら、授業準備で夜更かしが続くこんな初夏の日々も悪くないと思う。

(同上)

リブに感動したからといって、リブを教典に生きていく必要はないだろう。美しくなることの楽しみを見出している人に、なぜ、勝手に「美しくないと見なされることへの恐怖」 というラベリングをする必要があるのか。
 私は、自分をフェミニズムにかなり親和性が高いほうだと思っている。だけれども、このような文章を読むと、フェミニズムと距離を置きたくなる。私はここに、完成されたフェミニズムがあり、それをみつけさせるように仕向ける、いわゆる管理教育の姿を見てしまう。要するに、私は、『NANA』に共感したことを、「フェミニズム的に正しくないですよ」と言われた気分になったのだ。
 一方で、山田さんが、悪徳フェミニストだとも思えない。とても誠意があって、熱心な大学人フェミニストなのだろう。これ以降のニュースペーパーに、これを読んでいると思われる同業者から、山田さんへの批判が出されることもない。大学人フェミニストにとっては、この文章は、特に問題ではないということだろう。
 なんか私は、そういう雰囲気に、疎外感を持った。この研究会の人たち的には、この文章はOKなのか…それこそ、ここで、(現在、大学人フェミニストとは言われないであろう)私が、何か突っ込むのは「余計なお世話」なのだろう、と。せっかく会員なんだから、私もこの気持ちを書いて投稿して、疑問を挟むべきかとも思ったが、ずるずる書けていなかった。
 もちろん、みんながみんな、山田さんみたいなことを言ってるとは思わないし、そうじゃない大学人フェミニストも多いだろう。だけど、こういう人、たくさんいる気がする。そして、もうすでに何人か目撃した。そして、私の中で、大学人フェミニストのよろしくないイメージ像が膨らんでいく。
 もちろん、単にイメージの問題でしかない。だけれど、イメージ戦略が、あまり上手く行ってないし、そのことへの危機感は、大学人フェミニスト内にあるのか疑問だ。
 そして、こんなこと言ったら大学人フェミニストから、ハブにされるのではないかという、私の不安感。これは被害妄想…に終わるように祈っています。

*1:つまり、私も会員です。

*2:ただし、学会ではない。ので、大学人じゃないフェミニストもたくさんいる。

*3:ていうか、テーブルの上に『2年目の報告』がある、ってどんな漫画だよ?少なくとも商業誌では載るまい。

*4:今はあまり読んでない。