仏教→キリスト教→仏教

畏友、平山朝治氏(筑波大学)から、新しい論文「大乗仏教の誕生とキリスト教」(筑波大学『経済学論集』第57号(2007年3月)139〜185頁)を送っていただいた。いつもながら破天荒で面白い。

世間の常識では、仏教とキリスト教は、東西の代表的世界宗教で、まったく独立に発展してから、最近、交流もしはじめているらしいということになっているのだろう。だが、宗教学の世界では、もうずいぶん前から、大乗仏教(日本に伝わってきた仏教)の成立に当たって、キリスト教からの多大な影響があったのではないかという学説が現われている。歴史的・地理的に見て、かなり信憑性のある説であり(「ミリンダ王の問い」はギリシア世界とインド世界が交流していた証。福音書ギリシア語で書かれた)、また、大乗仏教キリスト教がけっこう似ているという内容的な面からも、信憑性は高いと思われる。(大乗仏教原始仏教・南方仏教は、別の宗教かと思われるくらい違っているという見方もできる)。

平山の論文は、いろんな関連資料を駆使しながら、そのセオリーをさらに進めたうえで、そもそもキリスト教の成立それ自体に、原始仏教の影響があったのだと主張するものである。すなわち、キリスト教新約聖書に現われる「言葉logos」は、原始仏教で言う「般若(智恵)」である、と。そして時系列で言えば、

ゴータマ・ブッダの死 400〜500BC
 ↓
エスの死 30AD頃
 ↓
12使徒の伝道 30AD〜
 ↓
インドへの到来
 ↓
インド仏教からの影響
 ↓
中東世界への逆影響
 ↓
福音書新約聖書)の成立 60〜90AD
 ↓
福音書新約聖書)からの影響による大乗仏教の成立 100AD頃

というわけである。

ほんとうに、このような相互影響のダイナミズムがあったとしたら、それはそれですごく夢のあるすばらしい話だと私は思った。もっとも、仏教、キリスト教、のがちがちの人たちは、すごく嫌がる話だと思うけど・・・。いずれにしても、われわれは、古代世界の思想のダイナミズムをあまりにも知らなすぎるということだろう。