バイラルマーケッティングの功罪

バイラルマーケッティングがブログで流行しているらしい。人気ブロガーなどにお金を渡したり、ただで製品をあげたりして、ブログで紹介してもらうことを期待し、そこから広がる口コミを利用して宣伝しようという企業側の作戦のことだ。バイラルがばれたブログが炎上したりして、ニュースにもなった。

ところで、梅田望夫さんらの新著を梅田さんがアルファブロガーたちに配り、それを彼らがブログでこぞって論評したことが、このバイラルにあたるのではないかという声を個人的に耳にした。

なるほどなー。と人ごとのように思っていたら、よく考えたら先日自分がここでやった書評もそうではないのかということにいまさらながら気がついた。もっとも私の場合は筑摩書房の編集者からの贈呈だったのだが(梅田さんと私は直接の面識はない)。でも、結果的に見れば筑摩書房のバイラルの片棒を担いだことになるとも言える。

バイラルの負の面は、おそらく、ブロガーから一気に顰蹙を買うということだろう。今回のことがもし妙な火種になれば、梅田さんの評判がブログ界でガタ落ちするかもしれない。(私の評判もね)。その場合、私もその片棒を担いだことになる。

それでふと思ったことだけを書くと、実は、物書きの世界では、バイラルマーケッティングというのは、はるか昔から行なわれていた業界の慣習であるということだ。それは何かというと、たとえば新聞書評の世界である。私は10年以上まえに「朝日新聞」の書評委員を2年間やっていた。その後も、いろいろな新聞で書評をしている。で、新聞の書評委員というのは、まさにいまでいうアルファブロガーなのである。「朝日新聞」で私がある本を書評したら、その週には、各地の大型書店の書評・新刊コーナーに平積みになり、アマゾンではヒットチャートが飛び上がり、出版社はだいたい増刷を決めるという事象が見られたからである。であるから、出版社からの献本攻勢がすごかった。いちばんすごかったのはNHK出版社で、毎月、ダンボール箱にいっぱいの新刊を次々と送付してきたのであった。他の出版社は、私が興味を示しそうな新刊を選択して、送ってきた。そうなってくると、どうしても、書評したい本がそこに含まれている確率が上がることになり、結果的に、それらから書評本を選ぶということが起きる。まさに、バイラルマーケティングである。(新刊の著者本人は関知してなくても、中堅出版社は編集者が上記のような努力を日々しているのである)。私は自覚して自分で書店に行って、地味な候補本を探すということをしていたが、献本の物量には負けがちになる。

とともに、物書きの世界では、相互献本の慣習がある。私も自分が新刊を出したときには、100冊くらいは、知り合いの物書きや友人たちに献本する。そしたら、それらの物書きからお返しの新刊献本が継続的に来る。こうやって、ある意味、自分の分野の新刊は自動的に手もとに集まってきたりする。これはいわば相互バイラルとでも言うのか。

だから、物書きの世界から見たら、ブログでのバイラルというのは、いままで長い間自分たちの業界がやってきた慣習が、ちょっとだけブログの世界にはみ出した、ということにすぎないのだろう。出版社の編集者もそのくらいの気持ちなのだろう。(物書き以外の業種でも同様のことは広くあるのだろう)。ただそれを、職業物書きではない敏感なブロガーたちがどう受け取るかは別問題である。