想田和弘の映画『選挙』BBC"Why Democracy?"で放映

BBCワールドで、いま"Why Democracy?"という、世界の民主主義の現在についての連続ドキュメンタリーを放映している。今日、その日本篇として、想田和弘『選挙』(短縮版)が放映された。これはすでに各国の映画祭などで好評を博しているらしい同名映画の短縮版らしいが、たいへん面白かった。

言語はすべて日本語で、英語字幕が入る。川崎市議会選挙に自民党から出馬する40歳の候補・山内和彦の選挙活動をその私生活にまで入り込んで切り取ったもので、たしかにいまの日本の一側面をあぶり出すことに成功していると思った。

毎日毎日、白手袋で、握手握手、連呼の連続。妻のことは妻ではなく「家内」と呼ぶように指導され、妻はそれに疑問をもちながらも流されていく。いかにも、なドブ板選挙の模様が映し出され、事務所開きの日には神主がやってきておはらいをする。人に会うたびにバッタのようにお辞儀お辞儀の連続。「家内」は英語ではhousewifeと訳されていた。この映像を、BBCワールドでいきなり見るのはすごく衝撃的だった。それまではイラクのテロの模様や、ゴアのノーベル賞や、パキスタンの大統領のことをやっていて、いきなりこの番組にはいる。そしたらお辞儀お辞儀の候補者、連呼する選挙カー、神棚に向かって柏手をうつ人々・・・。これはどこの国? 日本なんですよね。今日、BBCワールドで全世界に放映されました。

ふだんBBCワールドを見ている視点で見てしまったから、たぶん多くの視聴者もそうだと思うけど、ここに映し出されている国では、ぺこぺこお辞儀ばっかりして、年長者の意見には逆らうことができず、最後は「ばんざーい、ばんざーい」と唱和する不思議の人々がいっぱい。なによりも、みんな、身体の動きが硬い。ここに出てきている日本人はほんとロボットのようだ。アジア外に住んでいる人が見たら、これは中国なのか、北朝鮮なのか分からないであろう。私もよく分からなかった。一糸乱れぬ姿で朝礼の体操をしている姿は北朝鮮と言われても不思議ではない。

視聴後の感想としては、よい作品だと思ったと同時に、暗い気分になった。こういう、人々の身体をカチコチにさせるような国には住みたくないな。海外脱出する人の気持ちはよく分かる(もちろん海外も楽園ではないことは承知済みですけどね)。「ばんざーい」三唱はほんとにやな気持ちだ。私が前に勤めていた国際日本文化研究センターでは、正月の仕事始めのときに、職員全員を集めて所長があいさつしたあと、課長の音頭で全員が「ばんざーい」をした(現在のことは知らない)。私は(たぶんひとりだけ)万歳をしなかった。この国は、私のように「みんながしているときに、ひとりだけしない」ヤツに対して、「そんなに日本が嫌いならとっとと出て行け!」と罵声を浴びせる人々が現われる国である。いままで何度もそういう目にあってきたから、もうよく分かっている。これが、私のもっとも嫌悪する日本の側面である。

この番組は、日本では、NHKBSで10月19日深夜に放映される。
http://www.nhk.or.jp/democracy/yotei/index.html#yotei10

BBCでは、英語字幕付きの予告編を見ることができる。
http://www.whydemocracy.net/film/5

ドキュメンタリーとしては非常によくできている。この想田和弘という若手の監督はかなりの将来性があると思う。

BBCサイトには、以下のような解説がある。

Japanese elections politics are shaped by traditions and formalities. You have to have your campaign endorsed and blessed. You have to have the right people endorsing it and you have to have the right family structure and the right bow and handshake to even be considered for a policial post. It makes us wonder whether a person with no political background can accomplish anything in politics? Looking ahead how important is it for our society that the people running the country actually knows what they are doing?

この国で政治家になるためには、「the right family structure and the right bow and handshake」が必要なようだと。それはこの映像を見た者の正直な感想だろう。