荻上チキ「ウェブ炎上――ネット群集の暴走と可能性」
- 作者: 荻上チキ
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2007/10/01
- メディア: 新書
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トラカレのchikiさんこと、荻上チキのウェブ論が発刊された。前半の用語解説などは、退屈。サンスティーンやレッシグのまとめが、便利といえば便利かも。「サイバーカスケード」とか「エコーチェンバー」とか、そういう言葉を上手に解説している。
事例として目を引いたのは、荻上さん自身がブログを運営していく中で、強迫的にネット依存に陥った体験談と、イラク人質事件についての回想録。人質事件で、ブログの運営者が、一気に人質批判だけに流れ込んでいく過程を、当時ちゃんと追っている。このことは個人的には尊敬する。私は、当時、辛くて読めなかった。愛読していたブログや、友人のブログに、次々と「三人は死ねばいい」という主張が書かれていた。普段、ものごとを斜めにみているような素振りをしているブログの書き手も、右へ倣えで同じことを書くのだなあ、とショックだった。「ブログって、あかんわ。批判精神ないのね」と思った象徴的出来事。
しかし、全体的な分析のトーンは、最近よくあるメディア論という感じ。北田暁大、東浩紀、鈴木謙介のあたりの本に似ているなあ、と思ったら、荻上さんも東京大学の情報学環出身だそうで。そっち系の人が書きそうなことだなあ、と感じた。
WEB論ということで、懐かしい本を引っ張り出してきた。
- 作者: 森岡正博
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1993/04
- メディア: 単行本
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6〜7年位前に読んで、いやな予言だなあ、と思ったのは次の箇所。
ただ、架空世界でのコミュニケーションにしかリアリティを持てなくなったり、架空世界での「もうひとりの私」と現実世界での「私」とのギャップが広がりすぎて、自分の中でアイデンティティの統一がとれなくなるケースも出て来るであろう。そして最悪の場合、それは「現実世界」と「架空世界」の二つの世界の間で引き裂かれて放浪する、不幸な精神を生み出すことになる。
(中略)
現実世界と架空世界を、ともに無理なく受容してゆくこと、これが高度情報社会に順応してゆくための条件になるのであろう。しかし、たとえば、産業社会は人類に大きな可能性を与えた反面、数々のこころの病を生み出した。それと同じように、架空世界を増殖させえてゆく電子文明もまた、電子自閉症、外界リアリティの喪失、アイデンティティの崩壊など、いくつものこころの病を人類にもたらすにちがいない。
(84ページ)
実際に、この6〜7年、私はweb上の自分と、オフラインの自分の間のアイデンティティに整合性がもてない経験をいくつかした。荻上さんが論じようとしている問題も、集約すればこの地点の話ではないか。
しかし、この森岡さんの本はすごく微妙。特に後半は生理的に受け付けない人も多いだろうな、と思う。私も正直、読むのギリギリ。でも、これくらい、ギリギリな本って、印象的で忘れられなかったりする。
多くのメディア論はギリギリ感に乏しいので、つまんない本が多い。中立中庸って響きはいいけど、凡庸になりやすいから難しいと思った。