キャディ『切除されて』

切除されて

切除されて

 女性器切除を扱った書籍が、ブックファーストの新刊棚に平積みされているので手に取った。著者はセネガル人で、女性器を切除され、性暴力の被害にあった過去を持ち、現在はフランスで反女性器切除の活動を続けている、という半生を綴っている。
 それはともかくとして、女性器切除に関する議論が一切引かれていないのに違和感を持った。著者がどのような立場なのかは知らないのだが、せめて編集者か訳者は後書きに、日本も含めた先進国でフェミニストを中心に投げかけられた、女性器切除を外側から論じることに対する難しさの問題を、紹介すべきではなかったか?*1ネットでも、女性器切除を「撲滅するべき」「先進国が率先して〜」というような感想をみかける。意図的に無視しているのだろうか?

彼女の「正しい」名前とは何か―第三世界フェミニズムの思想

彼女の「正しい」名前とは何か―第三世界フェミニズムの思想

 アフリカの村の女性が女性器切除の抵抗を始める「母たちの村」という映画を去年観た。アフリカの青い空と原色の衣服、コミュニティの人々の明るいやり取り。女性器切除と性暴力の悲惨さは繰り返し描かれるのだが、その状況を変えようとするのは、白人先進国の文明化された金持ち青年ではなく、呪術をもちいてたたかう、アフリカの文化に深く根ざした中年女性の主人公である。アフリカ人による、アフリカ人の映画として高く評価されている。DVDが出ているようなので、女性器切除の問題に興味のある方は是非。

母たちの村 [DVD]

母たちの村 [DVD]

*1:詳しくは岡真理他を参照。「女性器切除のような野蛮な風習の残った、未開国を啓蒙してやろうという、植民地主義フェミニズム」への批判が起きた。また「女性器切除」(FGM)という呼び方にも賛否両論ある。